左から情報戦略課 廣濱さん、杉山さん、山田さん

 

豊田市情報戦略課に聞く:
庁内から変える。
豊田市が挑む“LINE公式アカウントの活用の文化づくり”

愛知県豊田市

多くの自治体がLINE公式アカウントを活用して行政DXを進める中、豊田市は「庁内からの変化」に焦点を当てています。市民サービスの利便性向上だけでなく、職員一人ひとりがLINE公式アカウントの活用を体験し、業務改善のきっかけをつかむ——。そんな思いから、同市では2日間にわたるイベントを開催しました。


1日目はLINE公式アカウントを活用する自治体の交流会、そして2日目は庁内職員向けの体験会。この記事では、職員の意識変化を生んだ2日間の取り組みに焦点を当て、豊田市役所情報戦略課の山田さん・杉山さんに話を伺いました。

開催の背景と狙い

――まず、今回のイベントを開催された背景を教えてください。


杉山さん(情報戦略課):
「全国の自治体の素晴らしい取り組みを、もっと身近に、もっとリアルに感じたい」という思いから、Bot Expressと共催しました。全国にはLINE公式アカウントを活用した事例が多数あるため、「一緒に明日の行政サービスに活かせるヒントを見つけよう」をテーマに企画しました。このような企画は、近年はオンラインで開催することが多いですが、豊田市では“つながり”を大切にしたかったので、現地開催を選びました。


1日目はBot ExpressのサービスであるGovTech Expressを導入済み、または導入検討中の自治体同士がアイデア共有や意見交換を実施。2日目は豊田市の庁内職員を対象に、他自治体のLINE公式アカウントの活用事例の紹介や体験・相談ができる場として設計しました。


――イベントはどのように構成されたのですか?


山田さん(情報戦略課):
2日間にわたって豊田市役所で開催しました。1日目は愛知県内に限らず、福岡県古賀市や京都府長岡京市など全国から約30名の自治体職員が参加し、午前中はセミナー、午後はグループディスカッション形式で事例共有・交流を行いました。


杉山さん:
2日目は庁内職員を対象に、LINE公式アカウントの活用方法を知ってもらうことを目的として、午前は他自治体のLINE公式アカウントの活用事例紹介、午後は体験会と相談会を実施しました。「各自治体の取り組みを知って終わり」ではなく、「自分の現場でどう使えるか」を具体的に考えられるように工夫しました。


岩手県の避難所名簿のLINE公式アカウントの運用事例、名古屋市の自治会・町内会DX、福岡県古賀市の成人式オンライン化など全国の多様な事例を紹介し、職員には避難所チェックインシステムやLINEメッセージ配信機能などを体験してもらいました。

イベント風景1
イベント風景2

職員の反応と気づき

――庁内の反応はいかがでしたか?


山田さん:
相談ブースを2つ設けたところ、事例を聞いたり、体験会に参加した職員が「うちの課でもこういうことができないか」と次々に相談に訪れ、常に満席状態でした。職員たちが前のめりに質問する様子が印象的で、実際にそこから新しいサービスづくりに発展したケースも複数あります。


――具体的にはどのような相談が多かったのでしょうか。


山田さん:
LINE公式アカウントを使った各種予約機能やメッセージ配信機能への関心が特に高かったです。これまで市民への連絡は郵送やメールが中心で事務負担が大きいと感じていました。一方、LINEであれば市の公式アカウントを友だち追加している方宛てにメッセージを気軽に送れますし、属性を絞ってメッセージ配信ができる機能などが便利だと感じています。


「イベントが中止になった時に、これまでは電話連絡で大変だったが、参加者にLINE上で直接メッセージを送れるなら連絡作業が楽になるし、連絡漏れも防げる」といった声や、「ボランティア参加経験者に、別のボランティア機会の紹介を個別に通知したい」といった具体的な相談もありました。


杉山さん:
LINE公式アカウントのメッセージ配信は、市役所からの一方向の情報発信に限らず双方向の連絡も可能です。たとえばLINE上で申し込みを受け付けたイベント参加者にメッセージを送ると、返信を受け取ることもできます。職員がLINEを“市民との接点をつくるツール”として捉えられるようになったのは大きな変化でした。


これまでは「LINE公式アカウントで何ができるのか分からない」という声が多かったのですが、今回のイベントで実際に触れてみることで「自分の業務でも使える」と具体的にイメージできるようになったようで、職員の意識が大きく変わったと思います。


さらにLINE公式アカウントの効果的な使い方の理解も進みました。LINE公式アカウントの活用を広げていきたい一方で、簡易な手続きには適していますが、たくさんの項目の入力が必要になるような複雑な手続きには向きません。その理解が庁内に共有されたのも成果の一つです。


――庁内の相談体制にも変化があったと伺いました。


山田さん:
はい。体験会を経て「まず情報戦略課に相談してみよう」という雰囲気が生まれました。それまでは「自分の課では難しいのでは」と尻込みしていた職員も、「これならできそう」と情報戦略課に相談に来てくれるようになりました。

体験会・相談会の様子1
体験会・相談会の様子2

子育て支援センターにおけるLINE公式アカウント導入の効果

――豊田市のLINE公式アカウントの活用の中で、子育て支援センターでの取り組みは特に効果が高かったと伺いました。


山田さん:
はい。市内16カ所の子育て支援センターでは、以前は電話でイベント予約を受け付けていましたが、受付開始時間になると電話が殺到し、「何度もかけ直している」「仕事中だけれど、隠れて電話している」「電話がつながったと思ったら枠が埋まっていた」などの声が寄せられることもあり、保育課には「電話をかけさせるのが子育て支援なのか」という厳しい声が寄せられることもあり、状況を変えるため、LINE公式アカウントによる予約受付を導入しました。


当初は先着順でしたが、公平性の観点から抽選方式へ移行。申込期間を2〜3日設け、当落結果をLINEで通知する仕組みにしました。これは「夜に子どもを寝かしつけてから申し込める」「自分のタイミングで応募できる」と好評です。職員の電話対応はほぼゼロとなり、本来業務に集中できるようになりました。


杉山さん:
年間1万件あった電話がほぼゼロになりました。また、予約データを可視化することで、応募数から人気の高いイベントが把握でき、次回以降のイベント内容や開催回数の検討に役立っています。利便性向上にとどまらず、行政サービスの質も向上しました。

子育て支援センター導入効果1
子育て支援センター導入効果2

庁内全体への広がりと運用の工夫

――子育て以外でも、活用が進んでいるそうですね。


杉山さん:
粗大ごみの予約・決済もLINE上で完結できるようになりました。以前は電話で申し込み、コンビニエンスストアなどで処理券を購入して貼りつける必要がありましたが、LINE公式アカウントであれば24時間いつでも手続き可能で、数分で完了します。電話受付も併用していますが、LINE経由の予約・決済比率はすでに5割を超えており、こちらも「LINEなら夜間でも申し込みできる」「コンビニエンスストアまで行く手間が省けた」と好評です。


このほか、こども園における0~2歳児の一時保育の抽選申し込み、マイナンバーカードの受取予約、チェックイン機能を使った市内農産物をPRするデジタルスタンプラリーなどにもLINE公式アカウントを活用しています。


――利用者の拡大にもつながっていますか。


山田さん:
豊田市LINE公式アカウントの開設当初は、市のホームページや、月に一度各家庭に配布している広報紙でお知らせしていました。友だち数は約2万人から、ここ1年ほどで約8万人へと拡大しましたが、その背景には、子育て支援センターイベント予約や粗大ごみ申請、マイナンバーカードの受け取りなど、LINE公式アカウントの友だち追加を前提とした手続きを少しずつ増やしてきたことがあります。今は自然な形で追加が広がっています。


杉山さん:
お子さんが生まれたときなど、市役所にどうしても来庁しなければいけない手続きもありますが、その際に豊田市LINE公式アカウントのご紹介もしています。ただ単に「豊田市LINE公式アカウントを追加してくださいね」というだけでは、「時間があるときにやろう」と後回しになってしまうこともあると思いますが、「お子さんの生年月日を登録していただくことで、月齢に合わせた子育てに役立つ情報が届きますよ」とご案内すると、「そんな便利な仕組みがあることを知らなかった」「子ども関係などの情報はぜひ欲しい」とおっしゃっていただく方もいて、積極的にLINE公式アカウントの友だち追加の案内をするようにしています。


豊田市LINE公式アカウントチラシ

――システムの運用面で意識されていることはありますか。


杉山さん:
Bot ExpressのシステムがSalesforce上で動いており、自由度が高い反面、慎重な運用が必要です。設計を誤ると広範囲に影響が出る可能性があるため、各課に運用を任せたいところではありますが、現在は情報戦略課で管理しています。


山田さん:
メッセージ配信については、「送りすぎない」ことを意識しています。重要な情報が他の案内に埋もれてしまわないように直前リマインドを活用したり、ブロックされないよう配信頻度やタイミングを慎重に調整したりしています。

防災・多文化対応への展望

――防災や多文化対応など、今後の広がりについてはいかがですか。


山田さん:
避難所では依然として紙やFAXでのやりとりが主流ですが、手間も多いですし、停電や浸水が発生すると機能しなくなるおそれがあります。こうしたリスクを踏まえて、庁内の防災DXという話も進んでおり、LINE公式アカウントなどのデジタルツールを活用して避難者情報をデータで収集する仕組みを検討しています。

多文化対応についてですが、東南アジア出身の方はLINEをよく利用されますが、欧米圏の方はFacebookなどを使う傾向があるため、情報の偏りが発生しないような運用を考える必要があると思っています。

今後の方向性

――最後に、庁内で取り組みを進めるうえで大切にしていることを教えてください。


山田さん:
市民サービス向上と職員負担軽減の両立を目指しています。これまでの行政サービスとしての「あたりまえ」にとらわれず、オンライン申請による手続き種類数の拡大や手続き自体の簡素化など、もっと市民が便利にわかりやすく手続きができるようにしたいと考えています。


杉山さん:
2025年7月7日には、デジタル技術・データなどを活用した質の高い行政サービスの実現に向けた取り組みの一環として、子育て世帯などを対象としたポータルサイト「豊田市子育て応援ポータル『とよたのコマド』」を開設しました。


「とよたのコマド」と「豊田市LINE公式アカウント」の両方を活用していくことで、各種健診や手当の申請など、子育てに関する情報を手軽に漏れなく収集できるようになります。市民の皆さんがサイトにアクセスして情報をチェックするだけでなく、市からも各個人の属性に合った「あなたに必要なお知らせ」を自動でプッシュ通知できるような仕組みを拡充していきたいと考えています。


山田さん:
あとは、例えば豊田市を訪れる方々のデータを分析して、「豊田市で実施しているイベントに名古屋から来る人が多いなら、名古屋でのPRを強化する」などのように効果的な情報発信を心掛けたいと考えています。


人口減少と職員数の減少は避けられない課題です。だからこそ効率化は欠かせません。防災などさまざまな分野で民間の力も取り入れながら、持続可能な運営体制を築いていきたいと思います。

まとめ

DXは、ツールそのものではなく、職員が自ら考え、改善を続ける文化を育てること。豊田市の取り組みは、まさに“職員と市民が共に楽になるDX”です。


LINEを使って単なるデジタル化にとどまらず、行政サービスをより便利に、より公平に、そしてより人に優しい形へ進化させようとしています。電話1万件がゼロになった改革の裏には、「現場の声を拾い、できるところから変えていく」というシンプルな姿勢があります。


豊田市が庁内外の職員を巻き込んで開催したLINE公式アカウントの活用イベントは、単なる事例共有にとどまらず、市役所全体に「自分たちの業務を変えられるかもしれない」という熱を広げました。こうした庁内外への知見共有の取り組みは、行政DXの新しい可能性を感じさせるものであり、今後こうした動きが全国に広がっていくことが期待されています。

集合写真

 

公開:2025年12月
取材・執筆:LINEスマートシティ推進パートナープログラム事務局 皆川