LINEスマートシティセミナー開催報告

2020年7月21日開催

1. 開催概要

 2020年7月21日、「withコロナ時代の行政とは」と題して、LINEスマートシティ オンラインセミナーを実施した。
 本セミナーの背景としては、今般の新型コロナウイルス感染症拡大を受けてwith/afterコロナの社会への対応としてデジタル化が急速に進んでいることがある。行政側もこの波に乗った対応が求められているところでありスマートシティ構想が現実に求められてきている。LINE株式会社は従来から「Closing The Distance」というコーポレートミッションのもとに、人と行政の距離を縮めるべく活動してきているが、本セミナーではより多くの自治体の方々に、LINEの持つスマートシティのビジョンを伝え、想像頂く機会を作るべく開催したものである。
本セミナーは426の自治体から950名の申込みがあり、800名以上の方が視聴している。

2. 基調講演

 はじめに、基調講演として平将明 内閣府副大臣より、「withコロナ時代における行政の在り方について」と題して、今後の国の機能のオンライン化に向けた動きについて講演が行われた。平副大臣は、IT政策・防災等の分野を担当されている。
 まず、withコロナ時代における行政の在り方として「デジタル遷都」を行う-現実の政府機能をデジタル空間に移していくことこそが肝要だと述べる。新型コロナウイルス対策に限らず、首都直下型地震等も想定される中で、首都機能の移転・地方創生の加速化という観点からも、デジタル・ガバナンスを地方自治体と協調して進めていきたいとした。
 また、先般の新型コロナウイルス対策での反省として、国や地方の情報システムが統一されていないことによる連携不足を挙げ、今後3-5年の間に地方自治体と共にデジタル化を推し進めていくとの政府の方針を示した。この中で、防災政策に関しては国民が日頃使い慣れたプラットフォームを使用することが有効であると述べた。また、LINEアプリについて、内閣情報セキュリティセンター(NISC)も利用していることを示し、それをもって国がLINEをどのようなアプリだと考えているかを考えて欲しいと述べた。
 政府として今後デジタルガバメント化に注力していくことを再度示し、講演を結んだ。

内閣府副大臣 平将明氏

3. LINEのスマートシティビジョン〜withコロナ時代におけるLINE Smart City〜

 続いて、LINE株式会社 執行役員 公共政策・CSR担当 江口清貴より「withコロナ時代におけるLINE Smart City」と題して以下の通り発表が行われた。
 今回江口が示したのはLINE上で住民が行政とのやりとりを完結できる「持ち運べる役所」構想とそのwith/afterコロナ時代における活用である。具体的には各自治体で先行している事例を取り上げつつ、「行政手続き」・「キャッシュレス決済」・「情報の配信」・「相談や問い合わせ」等を、LINEを用いて実現してきたと発表した。
 Withコロナの状況下では「ソーシャルディスタンスを保ちながらも住民と行政の適切な距離や手続きの容易性を確保していくことが重要で、かつ、新型コロナウイルスの感染状況に合わせてそれらを変化させていくことが急務だ」と江口は述べる。住民だけでなく役所の職員にとっても負担にならない方法でスマートシティ化を進めていくことが重要であり、新型コロナウイルスの流行状況が定常化する中で自治体と組んでいろいろなことに取り組んでいきたいと締めくくった。

LINE株式会社 執行役員 公共政策・CSR担当 江口清貴

4. トークセッション〜withコロナ時代に求められる自治体行政とは〜

 次に、東京都渋谷区の長谷部健区長と、埼玉県和光市の松本武洋市長が登壇し、先行してLINEを用いたスマートシティ化に取り組む自治体事例についてトークセッションを行なった。モデレーターは、LINE株式会社 公共政策室 室長の福島直央が務めた。以下、トークセッションの模様をお伝えする。
渋谷区の事例(2017年2月アカウント開設)
 渋谷区は2016年8月に初めてLINE株式会社と包括連携協定を締結した自治体である。2017年2月より子育て支援に向けたセグメント配信を軸にLINE公式アカウントの運用をはじめ、その後断続的にサービスの拡充を進め、2020年の4月よりeKYC(オンライン本人認証)を導入した住民票や税証明の申請(申請を受け付けた書類を郵送送付)等も始めている。
 渋谷区は、区役所に来なくてもいろいろな手続きができるという非来庁型サービスを促進している。LINEを活用した申請等の現状としては、先述した、AIを活用した顔認証技術等によるeKYCを導入した住民票や税証明の申請、道路やガードレール等の破損についてLINEで通報を受け付けるシステム、チャットボットでの子育てに関する情報の提供、ネウボラ事業の受付等を実施している。ネウボラ事業に関しては、電話とLINEの双方で受付を行っているが、全体の3割以上をLINE予約が占めている状況である。
 長谷部区長は、順次オンライン化を検討していきたいとし、区が持つホームページ以外の情報発信媒体としてLINEの重要度が増してきていると述べた。

和光市の事例(2020年6月アカウント開設)
 和光市は2020年6月にアカウントを開設と、比較的最近取り組みを開始した自治体である。新型コロナウイルス対策に伴う接触の軽減化を図るうちに、DXの必要性を感じ、住民の年齢層が低いということもありLINEを活用するに至ったと松本市長は述べた。この取組に付随して、和光市として市民参加条例を他の自治体に先駆けて制定したものの、市民参加が低調になってきている事態の解決策としてもLINEの効果を見込んだという。
 まず取り組んだ事例としては、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業・小規模事業者向けの支援金の申し込み、上下水道料金の免除の手続きである。和光市の独自施策であるがゆえに自らの意思決定で進行できるという観点から導入を始めたと松本市長は説明する。他にも市民参加を容易にする手段として、パブリックコメントの提出や各種の市民参加の会議の公募委員の受付等も実施している。パブリックコメントは直近回収されたもののうちの半数をLINE経由の投稿が占めていたという。本年7月15日からは上記の機能と併せて、チャットボットでの情報提供や、ゴミ分別問い合わせのための写真投稿機能を追加している。

トークセッション
テーマ:「LINEを活用した仕組みを取り入れたことによる市民、区民の反応はどうだったか」
【長谷部】最初に始めた子育て世帯層から非常に便利だという反応を受けた。子育て世帯である30、40代については転出入が多いこともありアプローチ方法に悩んでいたが、その点LINEは便利であると考える。今後with/afterコロナを見据え、高齢者のデジタルデバイド対策へのアプローチとしてもLINEで行えたらと思っている。

【松本】近年、公募委員に応募される方やパブリックコメントを提出される方は見たことがある方が大半となっていた。このLINEの取り組みで今まで見たことのない名前の方がかなり増え、アプローチできていなかった層の掘り起こしができていると思う。また、渋谷区同様、和光市も転出入の多い自治体である。転出入に伴う新しい住民が行政とどう関わるかということに関してはLINEが良いインターフェイスになるのではと実感している。

テーマ:「導入により行政の業務においてどのような効果が生まれたか。もしくは生まれそうか」
【松本】チャットボットを行政の総合案内とゴミの分別で導入したのだが、よくある質問をかなり捌けているように感じる。特に市民の問い合わせが多いと職員も消耗するため、それが減るということは人件費削減以上の効果があるのではないか。効率という意味では、仕事中に問い合わせがくると仕事が中断されてしまうという課題もあるので、LINEで処理していければ、職員自身の仕事の効率も上がるのではないか。

【長谷部】 窓口業務の負担が減るのは明らかにあると思うのが、LINEだけを切り取って判断しづらい部分もある。デジタル化を一気に推進しているため、そこだけで減ったかというと難しい。だが、窓口の業務は明らかに減りつつある。まだ過渡期ではあるのでもっと突き進めていく必要があると考える。

テーマ:「withコロナ時代になったことで、三密を避けるという意味でも非来庁型のコンセプトは重要になると思うが、今後をどうみているか。」
【長谷部】来庁しないだけでなく、オンラインで様々なことができるようになってくるのだと思う。例えば出張所のあり方も変わってくるのではないか。手続きをネット上でするのが苦手な人がそこに通うようになるとか、そこで地域のコミュニティをサポートするような方向に仕事が変わっていくのかもしれない。デジタル化を進めていく中で、ネットが苦手な人のサポートをすることを今後は考えていかなければいけない。

【松本】導入時の反応が良く、自前でトーク処理を作ることができる体制もよかったかと考えている。変化が激しいwithコロナ時代の中で、今まで一番ネックだったシステム改修の度にお金と時間がかかるというところを職員でも内製化でき、見劣りすることもないということが非常にありがたい。変化の対処というところで役所の機動性が上げられているように感じる。

【福島】我々としても自治体の方が実際に触ってみて使いにくいと思ってしまっては、導入されないことになってしまうので、そのようなご意見は貴重と考えている。この状況なので、どんどん自治体職員の方にも使っていただきたい。

テーマ:「LINE公式アカウント以外にも弊社はLINE CLOVAのデバイス(AIスピーカー)、LINE Ai call等いろいろなサービスを展開している。弊社と組んで今後このようなスマートシティの連携をしたいというご意見があれば伺いたい」

【長谷部】今やっている延長でいうと、学校のいじめ問題のサポート等の色々なプログラムをお持ちだし、そういったところはありがたい。また、先ほど申し上げたデジタルデバイド対策として高齢者等のサポートをしていくというのはLINEのみに留まらず、キャリア各社との連携も含めて充実させていきたい。

【松本】まだ取り組んでいるメニューが少ないので、渋谷区さんがやっているような住民票・税証明もやっていきたい。また決済を伴うものは魅力がある。金融機関側から決済コストを全部自治体で持って欲しいという話が出てきているのだが、紙を減らすほどそのコストが下げられる。その意味でも手続きを広げるのとあわせて手数料のキャッシュレス化を進めるのが効率化につながると思う。

【福島】渋谷区の方では決済を伴うものとして住民票の発行等をやっているが、実際にやってみてどうか。

【長谷部】電子マネーを積極的に取り扱っていくのはセキュリティの問題があると総務省は言うが、そこは常に追いかけっこしていくものだと思うため、今よりセキュアな環境になっていくということを考えた上でやっていきたいと思っている。

【松本】決済以外でいうと、いわゆる寝たきりといった方々に対する行政サービスの可能性がある。もちろんスマホをどう使うっていただくかという話は課題だ。あとは、現状行っている電話を通じた手続きについて、電話対応には人件費がかかる一方、そのコミュニケーションが欲しいという方も多い。うまくLINEのサービスと棲み分け、共存しながらも、リアルの人間が本当に必要とされているところに人を集中できるようにネットを活用していければと思っている。

【福島】お二方とも、ありがとうございました。

(左)東京都渋谷区の長谷部健区長、(右)埼玉県和光市の松本武洋市長、(下)LINE株式会社 公共政策室 室長 福島直央

5. 「LINEスマートシティ推進パートナープログラム」の発表

 トークセッション後には、LINE株式会社 公共政策室 室長の福島直央より、自治体のスマートシティ化の推進に向けた「LINEスマートシティ推進パートナープログラム」についての発表があった。
 「LINEスマートシティ推進パートナープログラム」は、スマートシティ化を検討している自治体が集まりつながれるコミュニティを形成するものである。自治体はこのプログラムに参加することで、LINEからの情報提供やスマートシティ展開に向けた支援のみならず、自治体同士での情報交換を行う場に参加できる。福島は、スマートシティ実現のためには、どこかひとつの自治体が発展していけば良いわけではなく、これまで以上に自治体同士がつながりあい、より利便性の高い行政サービスを検討し生み出していく必要があると述べた。本プログラムに多くの自治体に参加いただくことにより、多くの事例を創出するとともに、事例の共有により他の自治体でも横展開ができるよう相互に影響しあい発展していく場をつくっていきたいと説明した。
 今回プログラムの創設にあわせて立ち上がったのが、LINEを行政機関で活用する際の情報を提供するプラットフォームである「LINE for Government」である。セミナーと同日の7月21日付で公開、ウェブサイト・YouTube・LINE公式アカウントの3チャネルで、スマートシティ推進に活用できる情報を提供する予定である。
 また、今後開催が予定されているセミナーでは、事例を有している自治体の方にも講師としてご参加いただき、自治体内の導入手続きの苦労、ポイントなどについての情報共有を行う。先行する自治体の方から生の声を聞くことで、導入に向けた道筋がより検討しやすくなることを目的としている。自治体にも応用可能な民間事例のご紹介としては、実際にソリューションを提供している、LINEのテクノロジーパートナーが参加する質問会なども開催予定である。
 さらに、情報の「交換・共有」もできるよう、サービスや機能ごとにいくつかの分科会をつくり、それぞれ興味を持っている自治体にご参加いただく形でコミュニティ構築も進めていく。これは、事例の横展開の促進だけでなく、LINEを活用した新たな行政サービス案が生み出されることを目指すものである。またスマートシティの「事例創出」を促すため、パートナー自治体に限定して、LINEを活用した行政サービスの新規企画を提案し、応募を受け付けていくことも予定している。
 本パートナープログラムは、既にLINEと個別に協定を結んでいる自治体を中心に23の自治体が先行して参加している。参加条件はLINE公式アカウントをすでに開設、もしくは次年度までに開設することであり、会費等は原則無料である。LINE公式アカウントは地方公共団体プランを利用すれば1アカウント無償になり、申込はLINE for Governmentのウェブサイトから可能であることを説明して締めくくった。

LINEスマートシティ推進パートナープログラム

6. LINE Fukuoka「LINE SMART CITY GovTechプログラム」

 続いて、福岡に拠点を置くLINE Fukuoka株式会社 Smart City戦略室 室長の南方尚喜より「LINE SMART CITY GovTechプログラム」の発表があった。
 福岡市LINE公式アカウントは市人口160万人に対して、友達登録数が169万人と全国の自治体の中でも随一の登録者を抱えている。新型コロナウイルスに関する特別定額給付金の問い合わせに答えるチャットボットは10万回以上の利用、また地区ごとに必要な防災情報通知を受け取る市民は10万人となっている。また道路や公園の不具合をLINEで通報する機能は多い時で月400件。粗大ごみの予約は今や4人に1人がLINEで申請をしている。
 南方はこれらの機能はテクニカルな側面では4つの機能に分解して捉えられるとする。まず、市民一人ひとりが欲しい情報を選んで受信をするための「セグメント配信」。申請手続きやアンケートを市民の皆様が入力していただき、LINEで行えるという「アンケート/申請」。問い合わせに自動で回答する「FAQチャットボット」機能。そしてそれらを管理するための「管理画面」という4つの機能である。
 「LINE SMART CITY GovTechプログラム」は、これら4つの機能のソースコードを各自治体の皆様に無償で提供するものである。メリットとしてはこのソースコードによって機能を導入する際にかかる開発コストを下げることと、導入期間の短縮という2点がある。提供開始は2020年の秋頃で、提供開始後も福岡市LINE公式アカウントで提供されている機能に合わせて、順次ソースコードを追加提供する形でアップデートしていく予定である。
 申し込みは下記のWEBサイトから可能であり、早ければ秋以降、各自治体でこのソースコードをもとにした機能開発が可能になる予定である。

「LINE Smart City GovTechプログラム」|LINE Smart City for Fukuoka

7. 閉会

最後に司会のLINE株式会社 公共政策室 本川裕治郎より、参加した各自治体に対して「LINEスマートシティ推進パートナープログラム」への参加が呼びかけられ、セミナーが終了した。
 本セミナーのアーカイブは、You Tubeにて公表されており、使用された資料についても「LINE for Government」公式ホームページにて配布している。なお、第二回は8月21日に開催している。

■本セミナーのアーカイブ
https://www.youtube.com/channel/UCmJaenYD7cd-y5BvPrzxzsg/videos

■「LINE for Government」公式ホームページ
https://linegov.com/

■「LINE for Government」公式アカウント
https://lin.ee/6v1wAC2